寄稿「原 百合子はブルドーザーである」

〜繰り返すブルドーザー芸の軌跡〜

そもそもBAR以外の要素が濃い。漫画とか音楽とか、ニート時代とか、知ってしまうと結構なフィルターがかかる。偏差値86なのに簡単な漢字が書けないとか、人として何かポンコツな気配がする。

これだけでフィルターかかった人もいるかもしれない。

なので、今更だが、あえて割愛して、BAR方面だけで語っていく。

2005年より老舗BARに入り、2006年NBAジュニアカクテルコンペティションに初出場すると、わずか1年足らずの修行期間にも関わらず、銅賞受賞。

真っ直ぐな努力家気質と、ほんわかした萌え系風貌が顧客の心を掴み、王道舞台での活躍を熱く期待された。

受賞カクテル名は、時代を先読みし過ぎたのか、後の2020年オリンピックロゴのモチーフにもなった「ダミエ〜市松模様〜」。だいぶストレートな名前。〜付けてもまんま訳しただけやないか。

​この時、原百合子は大御所たちの「10年修行で一人前」のメンツも、同時参加した先輩方のメンツも、ブルドーザーとごとく笑顔でサラサラの砂に還してしまったのである。これがBAR業界での初馴らしである。

しかし場を荒らしておきながら、その後は賞レースに関心を示さず(この間ニートになっている)、2012年自家製リキュールBAR「フルールドゥリス」をOPEN。

常備が常識だった輸入リキュールや、スタンダードカクテルを廃止して、地域の農産物を取り入れた新たな自家製リキュールカクテルを提案した。

どういうことかと言うと、ボトルが並んでいるからBARに見えるというセオリーを踏襲せず、果実酒瓶ばかり並べた結果、山のペンションか、ばあちゃんちかという風貌になった。結果、素人だのスナックだの、日頃ストレスの溜まった人たちがお金を払いながら罵声を浴びせる、気前のいい店になったのである。原百合子も「先輩方の店から来る刺客が罵声とお金をくれた」と言っている。修行時代から彼女を知る、いや知った気になっている同業や客からは「邪道、逃げ、すぐ潰れる」と批判が続いた。しかしこのアンチの巻き起こりに「みんな元気で楽しい」と笑っているのが彼女ならでは。「大体、帰る頃にはみんな気分が良くなっていましたから、自分でいい店だなぁと思っていました」なんかズレてる。ハート強すぎる。やはり無理ゲーな土地をおかまいなしにブルドーザー進行していたようだ。

2014年、ご当地ファン層が付いてくると、状況は一転して自家製リキュールが受け入れられ、顧客から酒の製造を夢見る声が上がった。

原百合子はその声に応えて、4年がかりで酒造会社を立ち上げる。

まず、顧客の夢を聞いた彼女は、その2カ月後一人でアメリカにいた。2週間かけて20件のウイスキー工場を回ったという。

「お客さんの夢を聞いて、自家製リキュールはもう店にあるから、ウイスキーを作ろう!と思ったけど、樽工場がクッパ城並みに燃えてて、全然エコじゃなかったんですよ」待て、エコかどうかじゃなくて、ウイスキーは資本ないと無理なんだからね。「自分にも栃木県にも合うことを考えよう、早く帰ろうって、2日目に思っていました」それでよく20件回ったよね。

帰国後は、リキュール製造に照準を当てた彼女。栃木県の酒蔵巡りを始めたという。そして2016年10月、地域銀行のビジコンでリキュール事業案を発表し、参加者最年少ながら最優秀賞を受賞。銀行の人ですら信じていなかった受賞らしく、関係者の心をまたもブルドーザーで馴らしてしまう。彼女の成すことには下克上感があって、ちょっとしたジャンプヒーローか、下町の落語のような小気味良さもあったりする。だから僕も追っていく楽しみがある。

そして2018年2月、彗星のごとく工場に適した新築物件情報が入り、すぐさま入居を決めた彼女。借金を背負って、いざ一人夢に乗り出すことにした。いや博打だね。夢のためなら平穏すら駆逐するブルドーザー属性の賜物である。

けれど、彼女の周りにはいつも手伝ってくれるサポーターがいた。なんなら、徐々に増えていった。心の離れない人間が良き理解者だと思うから、勝手だけど彼女の周りにはゴツゴツしていない、心のサラサラな人間が集まっているのだと思う。知らない間に馴らされていたのかもしれない。僕含めて。

その後は栃木リキュールができて、知っての通りだ。

 

自身のBARをソムリエの姉に渡して引退。内心では原百合子に会いたくて通っていた顧客のハートに、そっとブルドーザーをかけて去っていった。

製造業に転じた彼女が初生産したリキュール4点は、早速ロンドンの国際的酒類コンペティションで銀賞・銅賞を受賞。多分すごいんだけど、理解できない。

そしてたった一人で集中製造したリキュールラインナップは、半年で一挙20種類に到達。製造スピードもえげつないガシガシ感。

しかも、製造開始前に募ったクラウドファンディングでは、支援総額417万円をゲットした。愛なのか強引なのか分からない。やはり、人は心をサラサラにしてもらえるのが心地良いのかもしれない。

かつて王道舞台から降りて、邪道と称された彼女。

しかしクラウドファンディングには、

「王道の国産リキュールブランドを目指す」と書いていた。その真意とは。

いや、聞くのはやめておこう。

そのまっすぐな思いはいつだって、清濁を砂に還し、開拓こそ使命のごとく、容易でない道へと突き進んでいくのだから。

見てるこっちが清濁飲まされてるのかもしれない。

これからもやってくれよ!信じて飲むからさ!

「逆境に飛び込もうとも、誇りを持って次世代に繋ぐことのできる文化を育んでいきたい。事業を通じて誰かの幸せに貢献し続け、駅伝のようにタスキを繋ぎ続けることが、私の理想です」

背景透明黒ロゴ-02.png
  • fb
  • ig
  • ツイッター - ホワイト丸

不定期直売のお知らせ

 栃木リキュール便り